忘れてはならないことは、子が親に先立って死ぬということは不自然な状況のわけですから、それは受け入れがたいという親の気持ちから見てあげることだろうと思います。しかしどんな死においても怒りや反動、取引というようなものはあるのだろうと思います。この症例の場合は非常に悲しいケースですが、子を失う家族、遺族の心理的なサポートは絶対に必要だということを示唆しています。その意味ではカウンセリング、かなり深層にわたってのカウンセリングが必要なのではないでしょうか。
家族のいいなりというか家族の希望だけに沿いますと、正しく行くべき方向を失ってしまうということもあると思いますし、境界線も見失ってしまい、その状況をコントロールすることさえできなくなってしまうということにもなる。必ずしも家族の望み通りにすることだけがいいのではなくて、ときにはこちらがリードしていかなければならないということもあるかもしれません。しかしその場合には家族を支える環境づくりが大切です。残されるであろう家族、親の気持ち、痛みがわかる、子の気持ち、子供の痛みがわかるということも大切なことだからです。
私のところによくうつ病で50代、60代、70代という方が来られるのですが、アセスメントをしましてもその原因がはじめはわからないケースが非常に多いのです。しかし深層のカウンセリングをしていきますと、たとえば小さい子供さんを亡くしているケースが結構あるのです。その時に喪失の悲しみのカウンセリングを受けないで、抑圧した形で、それを忘れるという形で解決をして、20年、30年ときているわけです。しかし喪失の解決をしていないものですから、それに積み重ねられて、非常に深いいわゆるクロニカルなうつ病にかかって、非常に深い慢性的なデプレッションになってしまう。そういう問題を一つ一つほぐしながら解決することによってデプレッションが回復していくケースが何件もあるのです。
アメリカなどでは子供を失ったときには、非常に早い段階でグループカウンセリングをするとか、家族カウンセリングをしていくというケースが非常に多いのですよそういうたことが具体的にこれから病院あるいはホスピスの中でもなされていくようなシステムをつくっていきますと、家族もスムーズにそういったものを受け入れることが可能なのではないかと思います。それをしないとシリアスなデプレッションになって20年も30年も後の人生に大きなネガティブなものが出てきてしまうのです。−私は長野県立子供病院に勤めていたことがありまして、専門の病棟は違いましたので詳しいことは言えないのですが、うちの病院では子供に対して告知はしない方針をとっていたようですけれども、11歳という年齢からいいますと自分の命が短いということを知っていれば、その後の人生をどういうように過ごすかということぐらいは考えられる年齢ではないかと思うのです。日本では子供に告知をすることは少ないのではないかと思うのですが、イギリスでは何歳ぐらいであれば真実を話すのでしょうか。
それから当院では外来で通院して最期まで看るというお母さんが何人もおられまして、白血病や神経芽細胞腫でも外来で抗癌剤を投与したり症状緩和を図って最後の3日ぐらい入院して亡くなる。そのへんのことをイギリスではどういうように説明しているかなどをお聞きしたいのです。
Andrew まず私は小児科医でないということをお断りしたいのですが、死にゆく子供の患者を診ている同僚が言うのには、嘘を見分けるのは子供のほうが大人より早いと。二番目に申し上げたいことは、子供の質問に答えるときに気をつけるべきことは、子供の質問に使ったコンセプトの枠の中で答えてあげるということです。4歳から8,9歳のところで子供の概念化という過程は急変するだろうと思うのです。8,9歳を過ぎれば大人らしい形での死を理解しはじめるのだろうと思います。ですからその以前においては子供の死の概念から踏み外さない形で答える必要があると思います。具体的に子供の置かれている日常の周りにある具体例、コンセプトを使って事例として説明するということが必要だと思います。
それからその同僚の小児科医に言わせますと、大人よりずっと子供のほうがものごとに柔軟である、頭が柔らかいということです。ですから子供の質問に対して本当のことを答えるとすんなりと受け入れてその情報を自分なりに処理をして次の問題にいく。
前ページ 目次へ 次ページ